オトナな部長に独占されて!?
もしかして……ひょっとすると……。
私は今、葉月部長に抱きしめられているとか……?
信じられない状況を把握するまでに数秒かかってしまったが、理解した後にはプチパニックに襲われた。
「何するんですか!離してっ‼︎」
部長の長い腕の中から逃げ出して、一足飛びに距離を開けた。
人の多い駅構内で、2メートルの距離を開けて向かい合う。
私達の間を通り抜ける人々が、訝しげな視線を投げてきた。
葉月部長は驚きの表情をすぐに真顔に戻し、
「失礼しました」と会釈まで付けて謝ってくれた。
私は……。
自分がやってしまったことに、マズイと気づいたところ。
失礼なのは、部長ではなく私だ。
助けてくれた葉月部長に対して、まるで痴漢呼ばわり。
「あ、あの……」
焦って失礼な言動をお詫びしようと思ったのに、背を向けられてしまった。
「帰りましょう」と一言だけ言って、歩き出した葉月部長。
やばい。怒らせてしまったのだろうか……。
それとも、傷つけてしまったのだろうか……。
部長の背中を追いかけながら、改札を通り抜ける。
その後は電車に揺られて社に帰り着くまで、私達は一言も言葉を交わさなかった。