オトナな部長に独占されて!?
そんな気持ちになりかけた時、左手の上の温もりが急に離れていった。
視線をグラスワインから部長に戻して、ドキリとした。
ジッと鋭い視線で、私を見つめる葉月部長。
「なるほどね」と、低い声で呟いただけで、私の話に対する感想は他になし。
いつもの柔らかく優しげな雰囲気も消えて、今、目の前にいる部長は何だか怖かった。
あれ……?
私、部長を不愉快にさせてしまったとか?
男である部長に、男を悪く言うような話をしたから、怒ったの?
ど、どうしよう……。
怒っているような葉月部長の雰囲気に何も言えなくなっていると、
「高村さん、0時を過ぎましたね。
帰りましょうか」
と言われてしまった。
帰りたくない……。
葉月部長を怒らせたままで、帰りたくない……。
そんなことを言う勇気はなく、俯いて立ち上がった。
ビルの外に出ると、部長がタクシーを拾ってくれて、タクシー代まで運転手に渡してくれた。
「高村さん、お疲れ様でした」
それはただの挨拶だと思いたいけど、怯えている心には、まるでクビ宣告のような響きを感じてしまった。
いつもの笑顔を見せてくれない、葉月部長。
タクシーは私だけを乗せて、深夜の街に走り出た。
後部シートで俯きながら、後悔していた。
やっぱり、言うんじゃなかった。
私、葉月部長に嫌われてしまったかも知れない……。