恋愛格差
「優」
名前を呼ばれて嬉しそうな優が私を見る。極上の笑顔で。
「ん?」
「優、明後日から私も仕事に行くね。」
瞬間、彼の顔が強張った。
「長いこと休んでるし、そろそろ行かなきゃ迷惑……「却下。ダメ。まだダメ。」」
「……いや、私もう大丈夫だよ。」
「ダメッッ!」
子供みたいに拒否する優に困惑する。
なんとなく嫌がられるだろうなとは思ってたけど、思ったより頑なだ。
そして座ったまま私をきつく抱き締めた。
「優……」
「まだダメだよ……」
優の気持ちがとても嬉しくて、私はされるがままになっていた。
優の腕の力が弛んだのはそれから何分経った後なのか。
もう一度「優、聞いてね、最後まで。」と彼の耳元で囁くように言うと、優は私をようやく離した。
それでも距離は10センチ余り。
優はとても悲しそうにしていた。
それこそ、親に捨てられた子犬みたいな。
そんな彼が愛しくて、私は微笑みながら両手で彼の頬を包んだ。
「ほんとに、ありがとう。
優が私を甘やかせて守ってくれたこの1週間があったからそう思えたの。感謝してる。
優も仕事に行ってる。
私も行かなきゃ。」
「……うん。」
頭ではわかっているんだな。
それなのに無理を言う優が可愛くて仕方がない。
「……ねぇ。あの事件の日、なぜうちに来たの?……もしかして鍵を返しに……?」
「……え?」
なんのことかわからずポカンとしている。
そして、あぁ…と溜め息をついた。
「だって、透子がもう仙台に行く直前まで会ってくれないのかと思ったし、このままは嫌だと思って……「関係ない」なんて言ったことも謝りたかったし。」
私を追いかけて来てくれたんだ。
「でも透子は家に居なくて、近所のコンビニとか本屋とか色々回ってたんだよ。でもどこにも居なくてもう一度透子の部屋に行ったら……」
私を見つめながらみるみる内に眉間にシワが寄っていく。
「クソッ!!」
バンッッと自分の膝を拳で叩いた。
「優っっ!……ごめんね。また思い出させちゃって……」
「透子が!…透子が辛い思いしたのにっ!…………」
ギリギリと奥歯を噛み締めている。
このままでは奥歯が割れそうだ。
私はゆっくりと優の頭を撫でた。
そして出来るだけ笑った。
少し涙が出たけど。
「……ありがと。優が居てくれて良かった……」