恋愛格差
浮気男はカワイイ彼氏


久々に出勤した会社は、歓迎ムードだった。
やっぱりこの会社は温かい。

警察沙汰にもなった為に事情は会社中に知れ渡っていて、休んだ理由が理由だけに恥ずかしかったのだが、そんな雰囲気は微塵も感じさせない。

「透子さ~ん!寂しかったよ~」と抱きついてきたミキちゃんに始まり、
「もっと休んで吉岡くんとラブラブしてても良かったのに」と言いつつ心配そうにしている三池さん。
「もう大丈夫なの?辛かったね。ゆっくりしててね。」といそいそとお茶を淹れてくれる社長。
その他営業の人や現場監督なんかもその辺で買ってきたお菓子やジュースを差し入れてくれた。

なんか、落ち着いて仕事がしにくいぐらい構われている。

「三池さん、仕事ないんですか?」

そんな可愛くない言葉が出てきたのは昼の2時過ぎ。
本当は私に気を使って、今日は私が休んでた分のフォローをしようと出掛けなかったようなんだけど。

「なによ?邪魔ってこと?酷いわぁ……ワタシだけのけ者にして……」
ヨヨヨと泣き崩れる三池さん(オカマ仕様)を放っておいて、ミキちゃんと山積みのオヤツを食べながら伝票処理をしている。
「ムシしないで!」と言う三池さんをちらっと横目で見る。手を止める時間は、無い。

「だって、ムダ話ばっかりしてるじゃないですか。」

「ムダ?どこが?吉岡くんとヨリが戻ったのかってこと?」

「…………」

「左の薬指にダイヤの指輪してきて、ツッコんでくれって言ってるようなもんでしょ?」

私の手がピタッと止まった。

「…………」

そうなのだ。
優から「絶対に外さないで」と強いお達しがあり、ビクビクしながら極力目立たないように気を付けた。
でもパソコンや伝票をいじるのに完全に隠すのは無理だ。
ましてや、電話は左手で取るのが習慣なんだから。

もちろん、優には今朝抵抗した。
「着けていったら皆に冷やかされる!」と。
優は「何が嫌なの?昨日の朝、透子は俺のプロポーズを受けたよね?だったらもう婚約者だろ?それに、そういったことは早めに会社にも報せとかないと。社会人として当然だよね。」

私としても指輪をないがしろにしたい訳じゃないし、きちんと親にも話してからなら会社に報告しようとしたのだけれど、優は納得しない。

「ちゃんと着けてるか、数時間おきに確認するから」と、ストーカー魂を炸裂させてから駅で別れたんだ。

一週間前は優とは別れたと言っていた私が、久々に出勤したら左手に薬指って……
この一週間で劇的ビフォーアフターだよな。

三池さんが言うのもわかる。

「んーーまぁ、仲直りしました。まだ未定ですけど、結婚したいな……と思ってて。」

「あ、やっぱ?遂にほだされちゃったか~!」

「け!結婚!?」

ミキちゃんの大きな声にビックリする三池さんと私。

「結婚……退職……。ホントだったんですか……?
イヤだぁ~っ!透子さんと別れたくない~っ!一人にしないで~」

すると、ミキちゃんの大きな叫び声に社長がどこからか現れて

「そう言うことは上司の私に先に報告するようにね」
「あ、あの……まだ未定で……すいません……」
と平謝りすることになった。



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