恋愛格差

ガチャガチャ…ガチャン!

「ひぃっ!」
飛び上がらんばかりに驚いてから首を回して玄関を見ると、
大きく開けられた玄関ドアをバックに……
やはり来てました、ゾンビが…
いやゾンビかと見誤るほどヨレヨレの格好をして、虚ろな目をこちらに向けた優が。

下着姿だというのに羞恥心より恐怖心が勝り、
微動だに出来ない。
薄いパープルのパンツに覆われたお尻と、瞬きできないドングリ眼を彼に晒していた。

優は、はぁはぁと肩で息をしながらゆっくりと靴を脱ぎ、近付いてきた。

ダース・ベイダーの効果音をバックに。

いつものかわいい小型ワンコのフワフワな優は何処にもいない。

こ…恐いよ……
殺されるの…?

「やっと……見つけたぞぉ…」


い、いやぁぁぁぁぁ!

声にならない声で頭を抱えてしゃがみこんだ。

ドカドカと足音が聞こえて「殺られる!」と思った瞬間、背中に衝撃があり前のめりになる。

絨毯におでこを強く打ち付け、痛みに顔を歪める。
でもそれどころではない。

この体制…

優が背中からタックルしてきたようだ。
そしてそのまま押し倒されている。

頭を庇っていた私の右手には優の右手が絡まり、
もうひとつの優の手は私のお腹にまわっていた。

この状況、
先日もあったような……

また野獣な優になる…ってこと?

しかし、そこで彼は微動だにしない。
ただ私の耳元で「透子…透子……」と本来以上の甘ったるい声で囁かれる。
耳を甘噛みされながら。

ほぼ拷問だ。

優が部屋に入ってから数秒で
恐怖が恍惚に変わるなんて
なんて強烈な麻薬なんだ。

もうダメだ。

耳には優の吐息、頬には優の柔らかな髪が。
この彼からの誘惑から逃れられる女はいない。

しかしいくら待ってもそれ以上進んでこない優に焦れったさを覚え、
「優……ごめん…ね。」

私はなんにも悪くないと思うのだが、もっと触ってほしくて謝ってしまった。

それでも優は私の背中に被さったまま、動かない。顔は真横にあって耳には優の唇が触れているのに。
そして、絡まった右手の力が緩まった。

「すぐ…る…」

キスしてほしくて耳に触れていた優の唇に自分の唇を寄せようと首を傾けると、「!?」

スーースーー

……こんっっの野郎……寝てやがるっ!

でろんでろんに酔った王子は熟睡中。

私の体に疼いた欲望をどうしてくれるんだ!
その気になっちゃったじゃないの!

急に襲われても困るが、途中(?)で寝られるなんて。
なんだか自分の女子力の無さを思い知らされるようだった。








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