恋愛格差
「で?そこからお付き合いに発展したのは?」
空になったコーヒーをゴミ箱に捨てながら聞く。
「帰りの電車も一緒でさ。でもその日は何にも話せなかったんだけど。
降りる駅が俺の家より手前で、毎朝偶然の出会いを狙って違う時間の電車に乗ったんだよなぁ……」
「いや、それすでに偶然の出会いじゃないし。」
「まぁね。でもどうしてももう一回会いたくてさ。」
うわぁ……カズってこんな人だったんだなぁ。
聞いてるこっちまで照れてしまう。
「いつ会えたの?」
「3ヶ月をちょっと過ぎた頃。」
カズの手にはピースサイン。
「……頑張ったね。でもストーカーだね。」
「ストーカー言うな!必死だったんだよ!しかも、さっちゃん、俺のこと忘れてるし!」
まぁちょっと会っただけの男なんか忘れるわな。
「ぜんぜん相手にしてもらえないから、もう頭下げちゃった。」
「は?」
「『一緒に食事してください』ってお願いした。」
マジで……
「その直球ぶりが良かったんだろうな~」
とのたまうカズを痛い目で見つめていたが、私の視線の先に幸代さんが。
50メートル程先の幸代さんに手を挙げて居場所を知らせようとしたとき、その間にフラリと優が出てきた。
「……っっ!」
優は幸代さんの方を向いていて、私とカズには気付いていない。
でも心臓はバクバクいっている。
ネクタイを緩め、気だるそうに顔をあげた優は、その先の幸代さんに気がついた。
「……鎌倉…さん……」
幸代さんはこんな場所で不自然に出会ったにも関わらず落ち着いている。
「なんでこんなとこにいるの?仕事終わって飲んでた?今日ぐらい早く帰れって言ってあげたのに。」
優は気まずそうに「すいません」と頭を下げた。
「ま、飲むのも体を癒す効果あるだろうけどね。吉岡くんはまったく癒されてなさそう。」
優はしばらく黙って、それからハハハ……と力なく笑った。
なんだろう。
遠目でよくわからないけれど、優とは違う人みたいだ。