恋愛格差
少し待って反個室のテープル席に通され、メニューを開いたとき、スマホが鳴った。

幸代さんだ!

「はいっ!」
しかし、幸代さんからの返答はなかった。

でも向こうの物音が聞こえてくる。

「とーこ?どうした?さっちゃんだろ?」
話しかけるカズを遮ってスマホに耳を寄せる。

『……で?なんで最近おかしいの?』
『おかしいですか?俺。』
『なに言ってんの?自覚なし?死に物狂いで営業かけてるかと思えば、死人かゾンビかと思うほどおぞましいオーラ出してるくせに。』 
『仕事はやってるでしょ?』
『仕事ってのは数字あげるだけじゃ駄目でしょ。社会人失格だわ。後輩だって育てなきゃなんないし、周りへの気配りも大事。自分に余裕無さすぎなんじゃない?みんな、腫れ物に触るみたいに接してんのがわかんないの?』

きっつー。私でも言えないわ、それ。
でも、同じ職場の先輩だから言えるのかもしれない。
幸代さんの性格もあるだろうけど。

「ご注文はお決まりですか?」
店員に声をかけられ、「ビールと枝豆」と言うと、メニューをカズに渡した。
カズは不満そうに唐揚げだのお造りだの頼んでいる。

あ~もう!聞こえない!

鞄を漁って、通勤で音楽を聞くためのイヤホンを取り出して、スマホに差し込んだ。

注文を終えたカズが
「なんだよ?俺にも片方!」
と、イヤホンの1つを私の耳から外し自分の耳に入れた。

仕方なく私は音量をめいいっぱい上げた。

『どこいってたの?さっき。』
『スナックですよ。』
『スナックってタイプじゃないと思ってたけどなぁ。最近スナックで楽しめるようになったの?大人ね~』
『……』
『スナックに金を落としに行ってるわけね?最近件数稼いでるもんねぇ。』
『……そこは鎌倉さんには関係ないでしょう?』
『イイ子いる?毎週行ってるの?』
『!……っだから!関係ないでしょう‼』

バンッッと机を叩く音にビックリする。

「あんのやろっっっ!」
乱暴にイヤホンを捨て、鞄と上着を掴んで席を立ったカズを
「待って!カズ、待って!」
私は制した。


「お願い……待ってよ……」

私の懇願に、カズは怒りを交えた顔のまま渋々座る。

私はホッとして、またイヤホンから聞こえる音に集中した
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