恋愛格差

『前に言ってた溺愛彼女とは別れたの?』
『……別れてないです……』

『好きなホステスでもいるの?』
『だから、そんなやつっ!……いないって!』

『早く帰ってデートでもしなよ。あんまり相手しないと誰かに持ってかれちゃうよ。』
『…………』
『……私は持ってかれちゃったんだから……』

「……え?」カズは目を丸くしてる。

『以前付き合ってた彼はね。私と同い年でさ。バリバリ働きたかった私は残業も厭わずでさ。
……何か社会に結果を出したいと思ってたのが彼には鼻についたのかな。
後輩の事務の女の子に持ってかれて結婚されちゃったよ……
女って、仕事頑張ったら男に嫌われちゃうのかな。』

『……そんな、こと……』

『吉岡くんは仕事もできるし、彼女もいて、スナックやラウンジで遊んで。羨ましいよ。
でもさ、彼女が大事ならもっと一緒にいる時間作ってあげないと。』
『お、俺は……そんなとこ行きたい訳じゃない……』

『でも、行ってるじゃん!遊んでるじゃん!
そりゃ飲んでるだけだろうけど。やろうと思えば浮気とかできるじゃん。』
『浮気なんか!しませんっ!遊んでなんかいないっ!』
『たから!遊んでなくてもそう取られるよ!
私だってこれでも彼を誰よりも大事にしてたんだから!』


電話の向こうが妙な空気になったとこに
「お待たせしました~」とビールをテーブルに置かれた。
私たちが真剣な面持ちで顔を付き合わせてスマホからイヤホンを1つずつ耳に入れている様子に気付いた店員は、あからさまにギョッとし、怪訝そうに戻っていった。

スマホから聞こえる音は
向こうの店内のBGMとざわめきだけ。


それにしても優が浮気じゃないっていうのは、なんだろう。
男と女では浮気の定義が違うのか。


一緒の部屋に寝起きして、1年半にも満たないのにセックスレス。
彼はいつも私が寝てから帰ってきて、時々香水の臭いをさせている。
私には触れないくせに。

そして、遊んでないと言い張る。
スナックなんて行きたくないと言う。
毎週行ってるのに。

考えれば考えるほど混乱してきて

イヤホンをコトリと机に置いた。
そして、ビールをグビッと飲んだ。

「透子…?」
イヤホンを付けたまま、カズは目だけを私に向けた。

スマホはまだ通話中。
料理の皿の間に置かれたまま。

「もう、いいや。疲れた。」


< 58 / 124 >

この作品をシェア

pagetop