恋愛格差
「俺の電話とったの?」

威圧的ではなく、心底困った様子。

「目の前で鳴り出して」

他人の携帯を勝手にとるなんて、普段ならしない。
私にとっては恥ずべき行為だ。でも謝ったりなんかしない。

「…実はさっ、部長が『一杯だけ付き合え』って言うからちょっとだけラウンジに行ったんだよ~」

「そう」

「すぐ帰ってきたよ!だって俺……そんなとこ苦手だし……」

「うん」

眉をピクリとも動かさない私を、そっと覗き込んで。

「……ほんとだよ?」

「勝手に取っちゃってごめん。でも……ゆかりさんって人?『スグル』って呼んでたよ。来週も行く予定みたいだけど……?」

私を伺う瞳が固まった。

「初めてじゃないよね?だってお客さんに敬語も使わないなんて、キャバクラじゃあるまいし。
なんでそんな嘘つくの?」

優が弱々しく首を横に振っている。
「違う……」

「優がラウンジに行こうがキャバクラに行こうが、ちゃんと言ってくれたら構わないのに!
こんなバレバレの嘘言って!
部長に連れてかれた?嘘だよ!」

泣きたくなんかない。
泣くどころか腹立たしくて睨み付けたいのに、
目の前が歪んでくる。

「…とーこ……」

「どうして嘘ばっかり……
騙されてるみたいだよ!……って騙されてるのか…」

ハッと息を吐き出すと
「違う!」慌てて私の言葉を否定する。
だけどそれ以上の説明もせず口を開くことはなかった。

彼が何も言わないなら私が見た全てを暴露するしかない。
息を吸い込んでゆっくりできるだけ穏やかに言葉を紡ぐ。

「……一人で駅に降りてったよね。それで、後つけてたの。」
「……つけてた?」


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