恋愛格差
金曜の夜、私はあのスナックビルの前にいた。

今回は隠れもせず。

七時にはビルの前にいたからかれこれ二時間は佇んでいる事になる。

「寒いなぁ……」

今日は凍てつく程の冷たい風が吹いていた。

「お腹もすいてるし、心も財布の中も寒い……」
なんて自嘲しながら時々スマホを弄ったり、駅の方へ歩いてみたり。
でも殆んどその場にいた。優を見過ごさないため。

彼がここに来るとは限らない。
それなのに容赦なくビル風が吹き下ろされてくる。

今日はどうしても優に会いたかった。
ここで会えなければこの後、優のマンションにも行くつもり。

一本電話をすればすんなり会えたのかもしれない。
どうしても電話できなかった。

優が悪いとはいえ、あんなに強く拒絶して別れた。
それを「話したい」なんて理由で電話できる?

だから寒くてもひもじくても待つことに決めたのだ。

完全に真っ暗で凄まじく寒いこの中、突っ立ってる人間は私以外にいない。
とても虚しい……

ふと、優は今何を思ってるんだろうか、と思う。

もしかしたら次の仕事が決まっていて、それに向けて気持ちを切り替えてしまっているのか……

そうなら少し寂しい……なんて思う。

まだ優を吹っ切れたわけではないし、
優には幸せになってほしいけれど、まだ忘れてほしくない。
ほんとに私は厄介だ。

フゥーっと息を吐くと白くぼやけ、吸うと冷たい空気が体を冷やす。

心まで凍りそう……

何の結論も出ていないのに、もう泣きそうになってきた。



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