恋愛格差
手を離す気はない優に溜め息をついた。
どうやら別れ話は拗れそうだ。
優の足元を見ながら言葉を紡ぎだす。

「もう…無理なんだよ。
私は優の浮気にも疲れた。
優だって私みたいに女子力無い女を相手にすること無いでしょ?
だから浮気するんだろうし。
優は男前で選り取りみどりなんだから、
もう、この際お互いにベストな相手を探すのがいいと思う。
私は優のベストにはなれないし。」

優が私の肩を両手でガッと掴む。
びっくりして顔をあげる。

「透子は俺のベストだよ!」

潤んだ瞳が目の前に。
引き込まれそうな漆黒の瞳。

これだ。これで私はいつも騙されたんだ。
今でもこの眼差しを信じたいと思っている私がいる。
胸が締め付けられる。

でも!

見てはいけない。聞いてはいけない。
そして冷静にならなければ。
いつもと同じじゃダメ。
冷静に説き伏せなければ今までと同じ。
彼を信じればまたどん底に落とされ、
そこから這い上がらなくてはいけない。
元の木阿弥。

私は横に視線を反らした。
でなければ言えないセリフだ。

「ありがと。でも優も私のベストじゃないんだ。
もっと自分に合う人を探したい。」

もうそれなりの歳だし。

それは言わなかった。
結婚を迫ってる年増女みたいでイヤだし。

型を掴む優の手の力が緩んだ拍子に彼を見上げると
やはり泣いていた。呆然として。

涙がポタポタと玄関に落ちる。

美しい男は泣き顔さえも美しい。
頬を流れる涙さえも「水晶みたいだ」とぼんやり思った。

そして数分後
立ちすくむ彼を残して静かに家を出た。
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