恋愛格差
「透子……俺、仕事やめるんだ。
来期、4月から東北へ行く。仙台。」
唐突に思ってもみない地名が耳から入ってきた。
「えっ?えーっっ!?せっ仙台?」
「うん……」
仕事を辞めるのは知っていた。
でもこの土地を遠く離れるとは思わなかった。
沈黙したまま見つめ合う。
優の瞳は揺らぎ無い。
対して私は動揺しまくっている。
「ゆ、ゆかりさんは……?」
その優の瞳が一瞬揺らいだ。そして一言
「彼女は関係ない。」
キッパリと言い張った。
「……お別れするの?」
もしかして彼女の子供が原因なのかも。単純にそう思った。
「彼女とはそもそも付き合っていないし、単なる知り合い。だから」
「元カノ……なんでしょ?」
優は目をむいた。
怯えを含んだその表情に、こちらもビクッとなる。
よく見れば握った拳が震えている。
「ど。どうして……?」
元カノだとバレただけでそんなにも動揺するなんて、
「偶然……なんだけど、」
スーパーで会って、話したことを優に説明した。
黙って聞いていた優は「……そっか。知られたくなかったんだけどな、透子に。」
と、ポツッと言った。
「どうして?
そりゃいい気はしないけど、元カノの事でごねたりしないよ。隠される方が気になっちゃって嫌だもん。」
優は遠くを見つめていた。
そしてゆっくり俯いて溜め息を一つついた。
「そうだよな……なんか、やりようがあったんだよな、俺」
そしてこちらに視線を向けた。
「ごめんな、透子」
私を真っ直ぐ射抜く真摯な瞳を見て、優の心からの謝罪だと思った。
そうなると、私の頑なな心も柔軟さを取り戻す。
「………いいんだよ。私も強情すぎた、……かも。
知られたくないこと、誰だってあるよね。」
「透子はそれでいいんだよ。白黒はっきりさせたいっていう透子が大好きだったんだから。」
と、眉を寄せて悲しそうに笑った。
その歪な笑顔がチクッと胸を射す。
優が心を開いてくれたら……と思ってた。
でも、やっぱり閉ざしたまま去り行こうとしてる。
私は今日は何しに来た?
きちんとお別れするため?
そんなんじゃないんだよ、優。
優の憂いの訳を知りたいだけ。
「今は好きじゃないの?」
「そんなことないよ。今だって俺のベストだと思ってる。」
だったらなぜ。
路線を少しも変更しようと思わないのか。
どうして。今まで培ってきたものを投げ出してしまわないといけないの?
「優……なにか苦しいんでない?」
覗いたその瞳に苦痛が垣間見える。
「隠してること、最後に全部さらけ出してよ。」