恋愛格差
「吉岡さんは、いつも何杯ぐらい飲まれるんですか?」
すると黙っていたゆかりさんは「一杯で帰るわよ。」と言いながら横に座ってきた。
「あ、あの豪快な若者ね!」
手をポンと打っておじさんが話に入ってきた。
「ゆかりちゃんといつもボックスで飲んでる男だろ?
若いのに良い酒飲んですぐ帰る、スマートだよねぇ。男前だし。」
確かにおじさんの前には安い焼酎のボトルがあり、相当飲んで歌ったみたいで、テーブルが散らかっている。
「そのグラス、飲めるの?氷入れる?」
「だ、大丈夫です!それより……聞きたいことがあって来ました。」
「……なにかしら?」
目の前のグラスを両手でグッと握りながら考えていた言葉を吐き出した。
「吉岡さん……優に何をしたんですか?」
ゆかりさんは驚いていたがスッと席を立ち、ボトルと空のグラスをつかみ、後ろの狭そうなボックス席へ向かう。
「こっちで話しましょうか」
私もグラスを持ってボックス席のテーブルに置く。
そして、ゆかりさんの斜め前に座った。
「何をしたかって?何もしてないわよ、今は。
ただ、偶然この店で再会して、そしたらよく来てくれるようになったの。」
「それだけ……?」
「あぁ……すこーし困ってることは言ったかな。」
「困ってる?何にです?」
「……それをあなたには言いたくないわね。」
優のボトルを持ち上げ、空のグラスに少し注いで艶かしい色をした唇をつけた。
「……彼は仕事を辞めて、引っ越すそうです。」
彼女の視線が揺らいだ。
「すべてを一からやり直したいようです。会社でも出世を期待されるぐらい頑張っていて、やりがいも感じていたハズなのに。」
「……そんな、」
「あなたと会ってからじゃないんですか?」
「……私………」
「私と別れたっていいんです。あなたと付き合ったっていいんです。でもこんな逃げ出すような人じゃなかった!
あなたは優の何を知ってるんですか?教えてください!」
覚悟を決めて深々と頭を下げた。