恋愛格差
音楽も流れていない静かな店内で、ママはさっきのお客さんの片付けをしている。
私とゆかりさんはボックス席。
私はただ、ゆかりさんが何か言ってくれるのを待つ。
前に置かれたグラスを見ながら。
ゆかりさんは黙って下を向いていたが、ふうっと息を漏らすと顔を上げた。
そしてわたしを見つめて
「悪いことをしたわ。」
と言った。
「すぐるに会ったのは偶然。ここに上司の方と来てくれたの。
私は高校三年の時、すぐると付き合ってた。
すぐるは一つ下の後輩だったの。バイト先が同じで。
とてもなついてくれて可愛かった。すごくすごく可愛くて……」
そして哀しそうに笑った。
「好きになった。
ゆずるは私の事を大事にしてくれて、いつも私の傍にいてくれた。私の欲しい言葉もくれたし、誠実だった。
でも、ゆずるはそれこそ人気者だった。
誰にでも愛されて、誰にでも愛を分け与えることができる。どんな人からも好かれていて……」
ツキンと胸が痛んだ。
それは私がこの一年ずっと思っていたこと。
ゆかりさんも不安だったんだ。
確かに優はモテるし愛されキャラだ。
性格も良いし、人に甘えることも上手い。
一緒にいるのが申し訳なくなるほどに彼は人気者なのだ。
高校生なら余計にそれが耐えられなかっただろう。
「彼が羨ましかった。そしてそれが積もり積もって、憎らしくなった、んだと思う。だって、すぐるは私に無い物を全部持ってる!仲の良い家族も、友達も、お金に困らない生活も!バイトだって社会勉強だって言って入ってきたんだから……
悔しかった。だから……私は彼を貶めてしまった。」
「……おとしめる?」
私はパッとゆかりさんを見ると、また下を向いていた。
「何にもない私がいつまでもすぐるを引き留めておけるなんて思えなかった。
好きだったから……離れてほしくなくて……
すぐるより優位に立ちたかった!」
「…………」
「この店で再会した時も、昔よりもずっと輝いてて、上司から可愛がられていて最年少課長候補だなんて言われてて……」
「……悔しくてまた貶めた……?」
「違う!悔しいのは……そりゃ。
ただ……私はお金に苦労してる事をチラッと話しただけよ……
よく来てくれて、すぐに帰るけどいつも高いボトルを入れてくれて、きっと高給取りなんだと……彼に甘えてた。」