恋愛格差
ゆかりさんの瞳が潤み、あっという間に一滴二滴とこぼれ落ちた。

「すぐに様子がおかしいことに気付いた。
みるみるうちにやつれていって……私を怯えるようになって…………
まるであの時みたいに」

「あの時?高校の時ってことですか?
なにがあったんです?」

ゆかりさんはもう手で顔を覆って泣き始めた。

「ごめっ……なさ、ごめん……なさ……い、うぅーっ」

それを見ながら私はどうしようかと狼狽えだした。

なんだかゆかりさんは何かをしたようなのだが、内容がさっぱりわからない。

泣いてるゆかりさんを問い詰めることも出来ず、ただ泣き止むのを待つしかなかった。

するとママが静かに口を開いた。

「ゆかりちゃんは吉岡くんに悪いことをしちゃったのね?吉岡くんが怯えるようなこと、吉岡くんが逃げたくなるようなこと。」

「い、今はしていません!ただ偶然再会しただけなんです!」

「ゆかりちゃんとの再会ぐらいでも、大打撃を受けるようなことをしたのね?」

ゆかりさんは涙をこぼしながらママをじっと見つめた。

「そんなにトラウマになるとは思わなかったんです……」

そう言うとまたしくしくと泣き始めた。

バンッッ!

置いてあるものが揺れるぐらいの勢いで、ママはカウンターを掌で叩いた。
私もゆかりさんもビックリして背筋が伸びる。彼女なんかは一瞬涙が止まった模様。

「ゆかりちゃん!ハッキリ言いなさい!過去に何をしたの!?」

「い、言えません……」

「言えない?
金曜日でないとは言え、木曜だって常連さんが来るかもしれないのに店閉めて、あんたのイザコザを解決しようってのに」

「…………」

「きっちりけじめをつけてもらうために場を設けた私の好意を無にするって言うの?そんなひどい子じゃないわよね、ゆかりちゃん?」

……怖い。
夜の世界で女一人でやってくにはこうでないといけないんだと思った。

いつもニコニコしてる訳にはいかない。
酔っぱらいやエロ親父をかわす芯の強さが必要なんだ。

さすがママ。

小さくても一国一城の主。

心の中で惜しみない拍手を送った。
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