甘えたがり煩悩


「──肉まん買ってくるだけで、どんだけ時間かけてるんです?」

「うわっ」


後ろから声を掛けられて、私の肩は震え、思わず声が出た。振り返ると、ふわりと甘い砂糖菓子のように口元に笑みを浮かべ、愛想よさそうにしている後輩がいた。誰だこいつ。本当にさっき私の隣で息を吐く様に暴言を吐いていた後輩か?


後輩は、なぜかずいっと私を押しのけて、自分の背中に私を追いやると目を白黒させている桶川くんに微笑んだ。


「どうも、こんにちは」

「え、あ。こんにちは。……もしかして、後輩って王子のことだったの?」


桶川くんが私のほうを見る。私がそうだよ、と口を開く前にそれは遮られた。

「どうもすいません。うちの先輩が迷惑掛けませんでしたか」

「そんなことないよ」

「なんで迷惑前提で話を進めるのかな?」

「俺たちこれから用事があるんで、もう行ってもいいです?」

「あ、ごめん。呼び止めちゃった?」

「人の話聞けよ」

「じゃあ、そういうわけで」


後輩は振り返りざまに私の腕を掴むと、肉まんもまだ買ってないっていうのに、ずいずい引っ張られて、歩きはじめてしまう。

その間、後輩くんは一度も私のほうを振り返ることはせず、その綺麗なお顔は表情という表情が一切欠けており、能面のように無表情だった。横目で見たときひいって言いそうになった。綺麗な人ほど、真顔が怖い。


そして、すたすた歩いていたのをやめると、後輩くんは私を振り返りながら目を細める。


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