甘えたがり煩悩
「先輩、彼氏欲しいって言ってましたよね」
「言ったけど」
「じゃあ、俺がなりましょうか?」
思わず顔を上げてしまった。その時いったい、私はどんな顔をしていたのだろうか。後輩は、私の表情を見るやいやな、今まで一度も見たことのない、ほっと安心した優しい笑みを浮かべた。
「先輩みたいな人は売れ残りになるはずですので、しょうがなく俺が買い取ってやりましょうか」
「……ちなみに、買い取り価格いくら?」
「うまい棒一本」
「ヤッス!」
「買い取ってあげるだけ、感謝してくれません?」
「えーだって、後輩くん私のこと好きじゃないじゃん」
「でも、嫌いじゃないから」
「私はちゃんと好きでいてくれる人がいいんですー。好き同士がいいんですー」
ぷいっと、顔を背けて分かりやすく口を膨らませてやった。
すると、彼は私の顎を掬い上げるようにつうっと首筋からなぞり上げて、私の顔をそっと覗きこむ。
「──じゃあ、あの間男にするんです?」
その瞳の奥には、静かな怒りが燃え上がっていた。
私は目を離すことが出来ず、その瞳に囚われたかのような錯覚に陥る。頭に血が上りそうだった。そりゃあそうだ。こんな綺麗な顔に至近距離から見つめられて、顔の赤くならない女子はいない。
身じろぎすらできない私を、滑稽だと思ったのだろうか、後輩は薄い紅色の唇をふっと、綻ばせる。