甘えたがり煩悩
「なあん、て。嘘ですよ」
数秒間の間。
「はッ!?」
「妙に浮き足立ってる先輩が腹立たしかったので」
「私のドキドキ返して」
「あれ? ドキドキしたんです?」
「うるせいやい」
ぱん、と後輩の手を払いのけて私は渾身の恨み辛みを乗せて、後輩を睨み付ける。後輩は、いつもの底意地の悪い笑みを浮かべながら、首を傾け、嫌味たっぷりに言って見せた。
「それでも俺を突き放さない先輩、割と嫌いじゃないですよ」
それが嘘か本当か。
それは分からない。
けれど、その嫌いじゃないが、私の嫌いじゃないとは遥かに違うことを、私は知っていた。