甘えたがり煩悩





「ごめんね、つき合わせちゃって」

「いや、いいよ。ちょうど通りがかりだったし」

「早めにいかないと後輩くん怒るんだよ」

「後輩くんって……まさかあの王子が?」


想像できないな、と斜め上を見て、首を傾げる桶川くん。その両手には、ここ数年分の文集が載せられていた。


私の両手にも、同じような文集が。学校の図書室に置けなくなった分の文集を部室に運んでおけ、と指示を出してきたのはめったに部室には顔を出さない顧問だった。
後輩くんに連絡して、一緒に運ぼうかと思った矢先、たまたま通りがかった桶川くんが運んでくれるということで、私たちは文芸部の部室に向かって歩いていた。


「あ、そういえば勉強会の話、どうなったの?」

「え? ……あー、あ……」


歯切れ悪く返事をする私。それを見て、桶川くんは訝しげな表情をした。

「なんでわざわざ後輩の了承が必要なの?」

「うーんと、部室のドアさ、立てつけ悪くて、鍵を閉めるにも開けるにもコツがいるんだよ。それが出来るの、私だけで。だから、私が開けないと後輩くんが入れないでしょ、あと閉めるのも私がいないとだめだし」

「じゃあ、部活終わったら、ってのは?」

「……遅いよ?」

「いいよ、別に。俺も図書館で勉強してるし」

「桶川くんは天使かなにかかな?」

「せめてもうちょっと恰好いいのがよかった」

「ごりら?」

「ゴリラの格好よさとは」




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