甘えたがり煩悩



「この人は?」

「俺の先輩」

「あ、そうなんですね。はじめまして!」


ふわりと髪を揺らしながら、その超絶可愛い女の子は私に対してお辞儀をする。なにこれ新鮮。後輩って、こんな礼儀正しいものなんだ。私の後輩、こんな風に私にお辞儀したことないわ。と、かなり感激していると、後輩くんが私に微笑んだ。


「たまたまクラスメイトにあったから、話しながら先輩待ってたんです」


なぜだか分からないが、後輩くんの目は死んでいた。私この目知ってる。残業で疲れて帰ってくる社畜のお父さんとおんなじ目だわ。その目のまま、後輩くんはすいっと私が掴んでいた袖に視線を落とし、そして、その袖の主を見上げる。


「それ、どうしたんです?」

「……あ、図書室に置き切れなくなった分の文集です」

「そうですか。あ、もしかして手伝って頂いたんです? どうもすいません、うちの先輩がご迷惑おかけして」

「あ、いや。別にそんな。俺からしたことだし」

「なにこのデジャウ」

「あとは俺がやっておくんで、どうぞお帰りになってください」

「う、うん。……あ、じゃあ、帰りに。俺が部室行こうか?」

「あ、私が行くよ。図書室だよね?」

「うん。分かった」


短い業務確認のように、二人で会話していると、後輩くんはひったくるような勢いで、桶川くんから文集の山を取り上げる。


その華奢な体のいったいどこにそんな力があるんだろう、と不思議に思うくらい軽々と片手でそれを持ち、もう片方の手で、さりげなく袖を摘まんでいた手を握られた。


それは、まるで、私から桶川くんを引き離す様に。



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