甘えたがり煩悩


明らかに怒っている。

何が原因かは知らないが、今までにないほど、怒っている。


私は横から突き刺さる視線と視線を合わせるのが怖くなって、顔を伏せた。すると、ハッと馬鹿にしたような、それでいて自分自身を嘲るような笑い声がした。


「そんなに嬉しいんです? あいつと一緒にいるの」

「は?」

「今、嬉しそうに笑ってたじゃないですか。俺といるときは、そんな風に笑わないくせに。俺、先輩に言いませんでした? 少し優しくされたくらいで、浮き足立って。それで痛い目見るのは先輩のほうですよ」

「それは、」

「ああ、もしかして、惚れました?」


息を飲んだ。


一番聞きたくなかった言葉だ。決して、彼からは。


「……の」

「先輩?」

「どうして、そんなこと、言うの」


我ながら馬鹿だと思った。
そんなの決まっているじゃないか。後輩は、私のことが気にくわなかった、だからそんなことを言うんだ。


心の奥底からぶわあっと何か溢れるものがやってきて、私の視界をぼやけさせる。


睨むのも、怒るのも、悔しいのも、全部どこかに消えて、心にあるのは最初から失恋していたんだという残酷な事実だけ。




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