甘えたがり煩悩




「死にたい」

切実にそう思った。

頭が痛い。憂鬱どころの話ではない。学校へ登校しているときも、いっそ痴漢でもして学校へ行けない既成事実でも作ろうかと血迷ったくらいだ。私がこんな朝早くから来ているのには、訳があった。



そう、鍵を、閉め忘れた。

この一点に尽きる。部室の鍵は、ドアの横に掛けたままだし、私はそのまま爆走して、桶川くんとの約束もすっぽかして、おうちにヒウィゴーしてしまった。戸締り確認の人が閉めてくれていたらいいのだが、いかんせん、あのドアの立てつけの悪さは一級品だ。そうやすやすと閉めさせてくれるとは思えなかった。



「……あれ?」

学校について、真っ先に部室に向かって、まず第一声がそれだった。
閉まっていたのだ。ドアが。もう一度試しに引いてみると、がこん、と音を立ててドアは揺れるが、開きはしない。


誰が? もしかして、後輩くんが? いや、そんなはずは。今まで鍵当番をしていたのは私だし、後輩くんがドアの開け閉めに関して何かしたことは今まで一度も記憶にない。
ぐるぐると思考を巡らせながら、教室に戻ると、誰もいない教室のとある机の上に、見慣れたものが置いてあった。


とある机とは私の座っている机のことで、その上に置いてあったのは部室の鍵だった。部活の顧問の先生が届けてくれたんだろうか? 疑問に思いながらも、私はその鍵をぎゅっと握りしめた。




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