甘えたがり煩悩
ああ、もう。
これは先輩のせい、ですからね。
俺は握りしめた腕をそのまま自分のほうに引き寄せる。驚き目を見開かせる先輩の柔らかそうな唇に、そっと自分のを重ね合わせた。
ちゅ、と音を立ててから顔を離すと、先輩が触れられた唇をきゅうっと結んで、今自分が何をされたのか、わけもわからないまま、顔を赤くしているのが見えた。
「ふっ、不意打ち禁止!」
「了解とったらいいんです?」
「り、了解とってもだめ! 心臓もたないから! う、うれ……し、けど……っ恥ずかしい死んじゃう!」
「っ、そんなこと言うから、俺は待てが覚えられないんです」
俺が鍵を掛けられない理由は、二つある。
二つ目は、先輩と一緒に帰りたいから。
本当は鍵だって掛けられる。
コツなんてすぐに覚えた。
それでも、俺は、掛けられないふりをする。
素直になれない言葉を、甘えたい煩悩を、見せないように。