甘えたがり煩悩
「帰るの?」
「一応」
「ばいばーい」
ドアまですたすた歩いていく後輩を目線だけ追いながら、軽く手を振ると、後輩は心底面倒臭そうな顔で、私のほうを見てくる。
「何言ってんです? 先輩も帰るんですよ」
一瞬、自分の耳を疑った。私はあっはっは、と大げさに声を荒らげ、頭を掻き照れくささを装う。
「えっ、何それ!? もう夕方だし、暗いから心配だし送ってくよ的な」
「先輩の頭はお花畑ですか?」
「しゃらくせーよ!」
「まあ、心配ってとこは当たってますけど」
「えっ」
「俺が」
「……」
「歩いてたら、逆ナンとかされるの煩わしいじゃないですか」
「おま、世の男子を根こそぎ敵に回しそうなことを……」
「先輩じゃあ役不足ですけど、一応魔除けにはなりますから。役不足ですけど」
「それを二回言うか!? 二回言うか!? ちくしょう!」