甘えたがり煩悩
大きくため息をつく。こうなったらなったで、突き放すのもなんだか、自分の器の小ささを後輩に指摘されそうで嫌だったので、私は机の上に置いてあった鞄を肩にかけ、立ち上がった。
ドアのすぐ横に掛けてあった、鍵を手に取り、後輩とともに部室を出る。
ドアを閉め、振る錆びた鍵穴に持っていた鍵をぶっさして、ぐるりとひねった。少しだけドアを押しながらやるのがコツだ。
ちなみに後輩はこのコツを掴めないらしく、専ら私が鍵を閉める担当になっている。口先も、顔も、器用さも何一つ叶わない私が唯一、後輩に勝てるところだ。泣きたくなるのはきっと気のせいだろう。
文芸部。
私と、後輩二人だけの、部活動。
たぶん、後輩が入ることがなければ、私と彼はいっさいがっさい、接点もなければ顔を知ることもなかった。
振り返ると、後輩ははあ、と憂鬱そうにため息をつき、腕を組む。その姿すら尊大に見えるあたり、顔って大事だよなァと改めて思う。こいつは顔のおかげで絶対人生イージーモードだろうし。
「……なんですか、その妙に腹立つ顔は」
「えっソンナカオシテタカナァ」
「鍵の開け閉めくらいで、そんなしたり顔をする自分が可哀そうだと思うことはありませんか?」
「一遍でいいから先輩に花持たせたりしてみろよ!」
「No, thank you」
「やたら発音いいのが腹立つわァ……」
げんなり肩を落として、私は文芸部の鍵を鞄の中にしまう。そもそも部員は二人だけだし、私たち以外に使う人もいないから、鍵はいちいち職員室に返しに行くことはなく、私に一任されていた。
まあ、おかげで学校が終わった後、私は猛ダッシュで後輩が来る前に部室を開けておかなければいけないのだけれど。後輩が何待たせてるんですか? って睨んでくるから。