甘えたがり煩悩


「あれ、どうしたの」

「あ、桶川くんだ」

「桶川くんだけどさ。大丈夫? けがない?」

「おかげさまで」


よいしょ、と私の態勢を立て直してくれると、桶川くんはのほほんとした雰囲気で優しく微笑む。うっ、笑顔がまぶしい。流石うちのクラス癒し担当! どっかの誰かさんの後輩とは大違いだわ! 支えてくれたとしても最後に先輩……痩せたほうがいいんじゃないです? って渾身の天使スマイルいらん余計なひと言を挟んでくるから。


「帰り、意外と遅いんだね」

「あーまー、活動ってほどしてないけど部活動してるからね」

「何部だっけ?」

「文芸部」

「何するの?」

「………………本読んだり、文集書いたり」

「謎の間」


とてもじゃないが、目の前の癒し担当桶川くんに暴言を吐いたり吐かれたりしてるだなんて口が裂けても言えなかった。

「桶川クンハナニヲシテイタノカナ?」

「話題逸らすの下手だねぇ。俺は、勉強」

「へえ、そっか。桶川くん努力家だなぁ。私もそろそろ数学が追い付けなくなってきそうでヤヴァイんだよね」

そういや、この前のテスト後輩くんに見られて、鼻で笑われたっけ。いつもの暴言と毒舌がつかないほうがダメージが大きかった。勉強しているところなんて一切見かけないのに、後輩くんは頭がいい。


神様は不公平すぎる。顔の良さと頭の良さすらあいつに与えるとは。欠点ないじゃん。あ、性格は悪いわ。



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