異聞三國志
その男は
カン巾を頭に被り、羽扇を持っていた・・・。


「演長よ、貴公が声を荒げるなどめったにないこと。」


「しかし、丞相閣下」

やはり、士郎は確信した。


“しょ、諸葛亮、孔明”


士郎は思わず


[諸葛亮、孔明]


とノートに書いて見せた。


「おのれ、閣下を呼び捨ての段、許しがたい!」


「まて、郭攸之よ!私の名前をわかったとは・・・。それにこのようないでたち、どこの書物にも出てこないいでたちだ。私の知る倭の国の人々とは違う。少しこの者たちを私が直に取り調べたい、よいな。」


「し、しかし丞相。」

「私の妻がこういうことには長けておる。」

熱くなっていたのが、出師の表にも出てきた忠臣として名高い郭攸之であったのは、後でわかったことである。

「よし、我が屋敷へ連行せよ。」


「何すんだ、コラ!理沙子ー。」

士郎と理沙子とともに孔明の屋敷へ連行された。


“孔明の妻といえば、あの変わり者の黄月英ではないか”


士郎は若干また緊張していた・・・。


“しかし、これからどうなるんだ。”


士郎も前途は暗雲だらけであった。


理沙子に至っては、かなり体力まで消耗していた。


「そ、そんなに大きくない。」


周りの高官の屋敷と余り違わない、邸宅へと連行された。


「まあ、なんてことを!直ちに縄をほどきなさい!大丈夫?」


優しく声をかけてきたこの女性こそ、孔明の妻、黄月英その人であった。


月英は理沙子を布団に寝かせて、士郎には暖かい食事を出してくれた・・・。


「く、くくく。」


理沙子が寝ているせいか、安心したのか、士郎は泣き崩れた。
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