彼女が虹を見たがる理由
すると村田さんは真っ直ぐに俺の目を見つめて来た。

吸い込まれてしまいそうな黒い瞳だ。

「あたし……みえるの」

一瞬時間が止まったかと思った。

彼女の衝撃的なカミングアウトに後頭部を激しく殴られたような衝撃を覚える。

「見えるって……?」

「幽霊」

俺の質問に村田さんは躊躇なくそう答えた。

幽霊が、見える……?

「一か月前、学校の前でひき逃げ事件が起きたでしょう? 被害者の女性はまだ成仏できていない。だからあたしは学校の行き帰りに彼女を見る事になる。それが原因で、体調も悪くなる」

村田さんの言葉がうるさいロック音楽のように脳内で鳴り響いている。

「あたしには成仏できていない死者が見える。しかも、死んだ当初のままの姿で……」

想像するだけでも背筋が寒くなる。

村田さんは毎日学校へ行き帰りするだけで、血まみれの女性を目撃していたということなんだ。

だから、登校して来てすぐ保健室へ……。

「放課後、虹を目に焼き付けるっていうのは……」

「帰りがけに保健室へ行くことはできない。だから、綺麗なものを見て気分を紛らわせるため」

そうだったのか。

これで彼女の行動の意味がわかった。

不思議ちゃんと言われる原因は、すべてみえる体質のせいだったんだ。
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