彼女が虹を見たがる理由
「全部知ってた」

村田さんは表情を変えずにそう言った。

「そうか。その辺にいる幽霊に聞いたんだっけな」

「彼女の名前は栗田エマさん19歳。近くのアパートで暮らしている大学生。将来イラストレーターになるために勉強をしていて、数日前小さなコンテストで入賞。大学を出る頃には立派なイラストレーターになれていたかもしれない」

「お前、俺を責めてるのか?」

「別に。それだけの命を奪ったと言う事を説明したまで」

相変わらずの無表情でそう言われて、俺はイラつきを覚えた。

どうしてこいつはこの状況で顔色1つ変えずに立っていることができるんだ?

ここでひき逃げした犯人と対峙しているんだぞ?

「ちなみに、あたしはこんなものを用意した」

そう言うと、野村さん……いや、村田はポケットからスマホを取り出した。

その画面は録音状態になっている。

「なっ……!」

俺は目を見開いて村田を見た。

「なにもかも喋ってくれたのは予想外だったけど、これで証拠が取れた。勘違いしてそうだから言っておくけれど、野間マサノの事は別に好きじゃなかった。

元からあなたたち2人をここにおびき寄せる予定だったから、そう見せかけただけ。遊園地の幽霊もそう。事件の事は予め知っていたし、被害者の彼はもう成仏している。だけど……あなたたち2人はまんまと引っかかってくれた」

村田はそう言い、今日初めて笑顔を浮かべた。

その笑顔は恐ろしいくらいに可愛い。

村田はジョウロを片手に俺に背を向けて歩き出す。
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