彼女が虹を見たがる理由
会話の糸口として野間の名前が浮かんできただけだから、そのくらいしか知らない。

「そうなの? そんな風には見えないけど」

「は……?」

俺は村田さんの言葉に首を傾げた。

そんな風には見えないとは、どういう意味なんだろう。

むしろ俺にはそんな風にしか見えないのだけれど。

そんな事を考えていると大きな十字路に差し掛かり、村田さんが足を止めた。

「あたし、家こっちなの」

そう言い、俺が帰る方向とは逆方向を指さした。

「そう。俺はこっち」

そう返事をして、村田さんが帰る道とは逆方向を指さす。

「じゃ」

村田さんはそっけない挨拶を残し、すぐに俺に背を向けた。

小さな背中が横断歩道を渡ってゆっくりと遠ざかっていく。

それを見送って、俺は自分の頭をかきながら歩き出したのだった。
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