Bartender
そう思いながら正文に声をかけようとしたけど、彼らの前に現れた人物に私は声をかけるのをやめた。

前髪をポンパドールにした女性は正文に、赤ちゃんを乗せたベビーカーを押している女性は正文の隣にいた男の人に歩み寄った。

正文は楽しそうに、奥さんと話をしていた。

その姿に、私の胸が締めつけられたのがわかった。

幸せな光景だと、私は思った。

彼らは楽しそうに笑いながら、店の中へと入って行った。

「――何で見ちゃうんだろ…」

久しぶりに映画を見て、お昼ご飯を食べようと思ったのに、この状況だ。

せっかく、そこに入って食べようと思ってたのに…。

だけど他の店に入る気は起きなくて、私は飲食店街を後にした。

私は一体、何をしたって言うんだろう?

心の中で呟いた後、息を吐いた。
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