Bartender
「――千沙さん?」

その声に視線を向けると、伊地知くんだった。

私は自分が住んでいるマンションへと帰ってきたみたいだ。

いつの間にか、周りは日が暮れていた。

「ど、どうも…」

私は会釈をすると、その場から立ち去ろうとした。

「待ってください」

伊地知くんが私の腕をつかんで引き止めた。

「な、何よ…」

突然のことに戸惑っている私に、
「何かあったんですか?」

伊地知くんが聞いてきた。

「何かって、何よ…」

一目で当てられてしまったことに動揺を隠すことができない。
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