Bartender
「どうすればいいのか、私もわからなかった。

５年間もつきあってるから結婚かなって思った矢先に、彼から結婚を理由に別れを告げられた。

でもね、泣けなかったの。

まあ、泣いたとしても彼が絶対に戻ってくるとは限らないけどね」

自嘲気味に呟いた私に、
「泣いてもいいですよ」

伊地知くんが言った。

「えっ？」

思わず私は聞き返した。

「本当は、つらかったんですよね？

長い間つきあっていた恋人に別れを告げられて、でも彼に面倒な女だと思われたくないから泣くことができなかった。

たとえ泣いたとしても、彼とつきあった時間はもう２度と戻らないから」

伊地知くんはそこで言葉を区切ると、私を見つめた。
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