Bartender
「千沙さん、俺の前では強がる必要なんてありません。

泣きたい時は泣いてください。

つらい時はつらいと言ってください」

私を見つめるその瞳は優しかった。

「――ッ…」

私の目から、涙がこぼれ落ちた。

伊地知くんがハンカチを差し出した。

濃い青色のハンカチはアイロンがかかっているのか、まるで新品のようだった。

私はそれを手に取ると、目に当てた。

「――うっ、くっ…」

涙を染み込ませた部分がさらに濃い青色へと変わった。

ツンと、ハンカチから伊地知くんの匂いがした。

それにも涙腺が反応して、ハンカチをさらに濡らした。
< 52 / 101 >

この作品をシェア

pagetop