Bartender
「――本当は、何でなんだろうって思った…」

泣きながらそう言った私に、
「うん」

伊地知くんは返事をしてくれた。

「事情が事情かも知れないけれど、何で別れることになったのって思った…」

「うん」

「全部返して欲しいって思った…。

時間も、何もかも全部返してって…」

「うん」

「泣きたかったよ…。

彼の前で泣いて、彼を責めたかった…。

そんなことをしたって彼は戻ってこないのはわかってるけど、結婚の話が消える訳じゃないけど、泣きたかった…。

わかってるけど、そうしたかった…」

「うん」

泣きながら話をする私を、伊地知くんは黙って耳を傾けて返事をしてくれた。
< 53 / 101 >

この作品をシェア

pagetop