Bartender
「――すっきりしましたか?」

洟をかんだティッシュをテーブルのうえに置いた私に、伊地知くんが声をかけてきた。

「うん」

私は首を縦に振ってうなずいた。

「久しぶりに泣いた」

そう言った私に、
「そうですか」

伊地知くんはティッシュを片づけた。

「千沙さん」

伊地知くんが私の名前を呼ぶと、私を見つめた。

「俺は、千沙さんのことが好きです」

彼から告白を受けるのは、これで何回目なのだろうか?

「でも…俺のわがままで千沙さんとつきあいたくないです。

せめて千沙さんの心の傷が癒えるまで、もう少し言うならば千沙さんがまた恋をしようと思うまで、俺は我慢します」

そこで言葉を区切ると、伊地知くんは私の顔を覗き込んだ。
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