赤い婚礼衣装
悪神は答えない。
私の髪の毛を指先に絡め、もてあそびなから、彼は何を考えているのだろう。
わからないから、怖い。
怖いのに、彼と瞳に何かが見え隠れしていることを私は知っていた。何を隠しているのか。私を手込めにしたいなら今までにいくらでも出来たはずだ。しかし彼はなにもしない。触れてはくるし、頬に唇を落とすこともあるが、それ以上はなにもしない。
「お前は愛を信じるか」
愛を…?
私が普段いる神殿の奥には、人は立ち入らない。わかっているからだ。悪神が時おり訪れていることを。
彼がここにいれば、つかの間の平和がくることを。人々は私を犠牲にしている。父と同じように。
天上に住まう他の神は見て見ぬふりで。
地上に降りた神や半神は、必死に守ろうとしてその身を削る。
仕方ないのだ。みな、生きるのに必死だ。私を嫌いとかそういう問題ではない。
「ええ。父と母が互いに愛し合ったから私がいるもの。貴方はどうなの」
「……どうだろうな」
エニンルドは私の頬に手を添えた。驚くほど優しい手だ。
「エウリュ」
「なんです」
頬に触れて、それは今度は軽く手をとった。そして、こう彼はいったのだ。
「―――お前は私を赦さなくていい」
***