赤い婚礼衣装
「話とはなんです」
父がつくった神殿の奥は私しか足を踏み入れないが、神殿自体は様々な人が足を運ぶ。
それは半神である私が祈りを捧げ、地を守っているからだろう。少しでも加護を受けたいというものは多い。
「それが…」
年配の男性が口を濁す中、私は神殿の人通りの多い場所へと出た。人だかりが出来ている。
一体何事だろう。
エウリュ様、と人々は私に気づき道をあける。がらっと空気が変わった気がした。
人がよけ、姿を見せたのは美しいもの。まだ幼いように見えるお付きの少年が二人と、その真ん中にいるのは立派な翼を持った天上に住まう者だった。
…どうりで人だかりが出来るわけだ。
悪神が荒し始める前には地上でも天上に住まう者の姿を見ることはあった。だがここ数年はほとんどない。あるのは地上に降りた神や半神くらいだ。
神は人にはない美しさがある。けれど、彼にはどこか欠けていると私は思わずにはいられない。父はそれを、本当の愛を知らないからだと話していたのを思い出した。
――――本当の、愛。
私は母からも父からも愛を貰った。けれど、私自身誰かへとまだ愛を抱くことはない。それよりも人々を守ることで精一杯だから。
私は半神。
父よりは力がない。それがもどかしい。
天上に助けを求めても、彼らは自分達のことで一杯で、助けてはくれなかった。
私は疲れた身のまま、言葉を紡ぐ。
「……天上に住まう方が一体何の用件があって私に会いに来たのです?」
「無礼者め。控えなさい」
「良い。無礼なのはこちらの方だ―――貴方がラウロ様の娘エウリュ様ですか」
「ええ」