赤い婚礼衣装






 ラウロというのは父の名前だ。父の名を出してきて、一体何をしにきたのか。


 男はファヌエルと名乗った。


 そして軽く膝をつき、恭しく手のひらを胸あたりにあてながら「天上の使いで参りました」と。


 天上の、使い…?


 その言葉に、回りで言葉少なく見ていた者たちが囁き始める。混乱しているという天上は、ついに救いに動くのか?そんな期待を持っているのかもしれない。私だってそうだ。祈りながら、いつか混乱がおさまり、また平和が戻ってくることを望んでいる。
 ファヌエルはそんな回りを気にしないそぶりで膝をついたまま口を開いた。



「―――半年後、貴方様にはエニンルド様の后となって頂きます」
「!なん……て」



 言葉を疑った。
 后、だと?后と妃ではまた意味が違ってくる。エニンルドは力のある神で、天上の王の一人である。妃は側室を意味することがあるが、后とは。

 妻、である。
 あろうことか、悪神の。


 
「必要なものはこちらで全て準備致しますのでご安心を」
「お、お待ちください!エウリュ様は」
「これは、天上で決まったことです」
「神だからといって勝手にそんなことを決めて良いと思ってるのか!」




 人々は口々に不安を洩らしはじめたが、ファヌエルは冷静に見ていた。お付きの少年らは先ほど咎められたまま黙っている。


 ――――天上と地上は、ついにここまで来たのか。


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