赤い婚礼衣装





 ――――真っ白な衣装。
 驚くほど手触りのいい生地は絹だろうか。


 式の直前まで、美しい天上の者たちに調整をされたお陰で驚くほど見違えた私がいた。

 髪の毛も艶があり、肌もまたしっとりとしている。爪の先まで手入れされた。



 ―――妻。
 私は悪神エニンルドの妻となる。



 母がいなくなり、父がいなくなり、私はひとりぼっちだ。
 守るために力を使い、体を疲労させ体を引きずる。人々は助けてくださいという。逃げ延びた人々は増える。助けたい。でも私には限界がある。人々は不満も出てくる。


 いっぱいいっぱいだった。
 いっそのこと死んでしまったら楽になるだろうか。


 私に、多くの声が囁いた。悪神を殺せ。見捨てないでくださいませ。小さい子供が。お腹すいた。動けない。痛い。殺せ。助けて。
 幾重にも悲しき声は響き、蝕む。
 



「―――汝、かの男を夫とすることを誓うか」



 今はもう、式の真っ最中だった。
 私の唇は誓いの言葉をつむぐ。夫となるエニンルドの美しい、血に濡れた手がベールをあげる。


 美しい顔をした神。
 絹のような銀の髪。


 そんな顔で何人殺したの?
 どうして私なの?
 何を隠しているの?


 唇が重ねられる隙に、私は隠していた短剣を突き刺した。鈍い感触がした。


 神だって死ぬ。


 私は殺されるだろうか。大罪人として惨たらしく。それでもいい。私は疲れたのだ。終わらせてしまいたい。



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