赤い婚礼衣装





 だが―――唇が重なった。
 それは長いのか、短いのか。私にはただまざりあうように受け止めた。



「…我らは夫婦となった。もう退場しても構わぬな?」
「エニンルド様!?」



 ――――けれど。
 彼は短剣を上手く隠したまま、私をつれて式場を後にした。


 通路を歩く間、私は呆然と引きずられていく。
 脇腹あたりには短剣が刺さったままで、血が染みて花を咲かせる。しかしエニンルドは動くことを止めない。だから血は流れ続け、密着するようにして引きずられている私の真っ白な衣装を染める。



 何が、あったのだろう。
 私は怒りに触れ、殺されるだろうお思っていたのに。



 広い場所に出た。ここは神殿のような場所である。大きな柱が連なり、すばらしい彫刻が出迎えた。どこかで水音がする。


 足取りが重くなるなか、エニンルドは手を離さなかった。暖かった手が少しずつ冷えていくのを感じながら、私は振り向いてみた。床には彼の血が歩いた証を残している。まるで彼がやってきたことの軌跡のようだった。


 刺繍や宝石などがふんだんに使われた婚礼の衣装。
 エニンルドの衣装は赤く染まりつつある。私の衣装もまた赤く染まっていく。


 神殿のような場所をひたすら進むと、行き止まりになった。
 壁側には楕円形の窪みのようなものがあり、縁にはまた彫刻が施されている。楕円形には鏡らしきものがはまっていたが、私らの姿をうつすことはなかった。

 その前でエニンルドが声を張り上げる。




「盟約は、果たされたぞ!我らは貴様に勝った。世界は取り戻させてもらう」




 手が、離れた。
 私は数歩よろめいたが、エニンルドは違った。

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