温もりを抱きしめて【完】
「…………」


暫くギュッと口を結んで顔を俯けていた夏希ちゃんが、少し顔をあげる。


「……伽耶は」


そう言うと、今度はしっかりと私を見つめる。



「……伽耶は会長が好きで一緒になるの?」



まるで、そうあって欲しいと縋るような目で私を見る夏希ちゃん。

真っ直ぐな彼女の質問。

それに、私もちゃんと返さないとと思った。



「……ううん、そうじゃない。お互いの、家の為」



今はこれしか言えない。

要さんに対する気持ちなんて、私にはまだ分からないから。



「何よ、それ!どうして想い合ってる2人が離れなきゃいけないの?!他にも方法はあったでしょ!」


そう言う夏希ちゃんの声は、泣きそうだった。


「だって水織と会長は、あんなにも…あんなにも想い合ってたのに…っ」


そんな夏希ちゃんの姿を見て、私は胸がギュッと締め付けられた。


ーーー嫌われたかな。


理由はどうであれ、仲のいい友達の彼氏を奪ってしまったのだから。



「夏希ちゃん……」




こうなる事はどこかで予想していた。

その上で、私はこの道を選んだんだ。



仕方がない。

要さんが、彼女を諦めたように。

欲しいものを両方手に入れることなんて、出来やしないのだから。
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