温もりを抱きしめて【完】

心の奥にある気持ち

婚約パーティーが終わり、要さんは2日後にはまたニューヨークへと戻っていった。

私は残りの夏休みを、西園寺邸で1人で過ごす。

とは言っても、園芸部の活動や習い事や勉強などやることはたくさんあって毎日の生活は慌しかった。




「...藤島、水!」


横から聞こえた声に、ハッとした私は持っていたホースのレバーを離した。


目の前を見てみると、私がボーっとしていた所為で木の根元に小さな水溜りが出来ていた。



「大丈夫か?」


駆け寄ってきた神谷くんは、心配そうに私の顔を覗き込んできた。

背の高い彼を見上げて目が合うと、私は慌てて頭を下げた。



「ごめんなさい!水溜まりが出来ちゃった...」


「この暑さだから、これくらいの水なら問題ないだろ」



神谷くんはチラリと木に向けただけで、また私に視線を戻す。



「それより...何かあったのか?今日はずっと元気なかっただろ」



そう言われて、思わず俯いた。

理由は自分でも分かってる。



...夏希ちゃんが、今日は部活に来てないからだ。



ホントは夏希ちゃんも来る予定の日だったから、もしかしたらと思うと何だか元気が出せなかった。



「...ごめんなさい」



シュンとうな垂れる私に、神谷くんが溜息をつくのが聞こえた。



「全く、藤島といい東條といい...2人揃って同じ顔してるじゃないか」



『東條』という名前を聞いて、バッと神谷くんの方を見た。

キリッとした表情の奥に、少し困ったような顔が伺えた。
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