温もりを抱きしめて【完】
受付を済ませて会場に着くと、煌びやかなシャンデリアに照らされて、和やかな雰囲気で会話を楽しむ招待客が大勢いた。
今日は取引先の会社の創設35周年の記念パーティだそうで、代表取締役を中心にして人だかりが出来ている。
挨拶は後にすることにした私たちは、他の招待客と適当に会話をしながら時間を過ごしていた。
婚約発表後に公の場に出たのは初めてで、要さんに「婚約者の伽耶です」と紹介される度に気恥ずかしくなった。
「お父様はお元気かな?」
「ええ、お陰様で」
要さんがそう返すと、次に出てくる言葉は決まっていた。
「またウチの会社で新製品が出るんだが、是非お父様に勧めといてくれないか」
厭な笑みを浮かべて、自社製品の売り込みをする人も少なくない。
要さんはそんな相手の話を感じ良く受け流している。
私も要さんに倣って、にこやかな笑みを絶やさずに隣に立っていた。
「ほら」
近くのスタッフを呼び止めて、グラスを2つもらった要さんは、1つを私に差し出してくれた。
「ありがとうございます」
もらったグラスに口をつけると、渇いていた喉がみるみる潤っていく。
会場についてから、ひたすら挨拶に来る人の対応ばかりしていたから何も口にしていなかった。
「もう暫くいることになるが、疲れてないか?」
「ハイ。要さんこそ、大丈夫ですか?さっきからいろんな方と話しっぱなしで」
「これくらい何てことないぜ。パーティではよくあることだ」
「なら、いいんですけど」
私はそう言うと、グラスの中のクランベリージュースを飲み干した。
私は婚約するまでこんなパーティに出ることはなかったけど、要さんは昔からこの手のパーティにはお父様とよく出席していたようだ。
そう言えば、近頃は1人でもお父様の代わりに出席したりしてるって言ってたっけ。
会場の隅の方で要さんと話しながら、時間を潰す。
お世辞が飛び交うこの居心地の悪い空間も、要さんと話している時は忘れられた。
「要くん」
でも、そんな空気をガラリと変えてしまう人が現れた。
私は面識がなくて誰だか分からなかったけど、要さんの表情に陰が落ちるのが分かった。
今日は取引先の会社の創設35周年の記念パーティだそうで、代表取締役を中心にして人だかりが出来ている。
挨拶は後にすることにした私たちは、他の招待客と適当に会話をしながら時間を過ごしていた。
婚約発表後に公の場に出たのは初めてで、要さんに「婚約者の伽耶です」と紹介される度に気恥ずかしくなった。
「お父様はお元気かな?」
「ええ、お陰様で」
要さんがそう返すと、次に出てくる言葉は決まっていた。
「またウチの会社で新製品が出るんだが、是非お父様に勧めといてくれないか」
厭な笑みを浮かべて、自社製品の売り込みをする人も少なくない。
要さんはそんな相手の話を感じ良く受け流している。
私も要さんに倣って、にこやかな笑みを絶やさずに隣に立っていた。
「ほら」
近くのスタッフを呼び止めて、グラスを2つもらった要さんは、1つを私に差し出してくれた。
「ありがとうございます」
もらったグラスに口をつけると、渇いていた喉がみるみる潤っていく。
会場についてから、ひたすら挨拶に来る人の対応ばかりしていたから何も口にしていなかった。
「もう暫くいることになるが、疲れてないか?」
「ハイ。要さんこそ、大丈夫ですか?さっきからいろんな方と話しっぱなしで」
「これくらい何てことないぜ。パーティではよくあることだ」
「なら、いいんですけど」
私はそう言うと、グラスの中のクランベリージュースを飲み干した。
私は婚約するまでこんなパーティに出ることはなかったけど、要さんは昔からこの手のパーティにはお父様とよく出席していたようだ。
そう言えば、近頃は1人でもお父様の代わりに出席したりしてるって言ってたっけ。
会場の隅の方で要さんと話しながら、時間を潰す。
お世辞が飛び交うこの居心地の悪い空間も、要さんと話している時は忘れられた。
「要くん」
でも、そんな空気をガラリと変えてしまう人が現れた。
私は面識がなくて誰だか分からなかったけど、要さんの表情に陰が落ちるのが分かった。