温もりを抱きしめて【完】
「あの、……っ」


要さんの胸に押し付けられるように、強く、強く抱きしめられた。

息が詰まるように苦しい、そんな力強さ。


「要、さん…」


私が耳元で名前を呼ぶと、要さんはコツンと肩に頭を乗せてきた。

抱きしめる力は少し弱まり、息苦しさがなくなった。


「……俺の選んだ道は、これでよかったのか」


私の耳元に聞こえてきた、要さんの声は普段の彼に似つかわしくない弱々しい声だった。


「水織を傷付けて、お前を巻き込んで…ホントにこれでよかったのか」


やっぱり充さんの一言は、思った以上に要さんにダメージを与えたようだ。

決意したとはいえ、大事にしていた彼女が泣いてるなんて…きっとホントは堪え難いはずだから。



私は恐る恐る要さんの背中に腕を回した。

その温もりを抱きしめて、彼がココにいる事を感じたかった。



「……私は、巻き込まれたなんて思ってません」


その気持ちが伝わるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「あの時、要さんの手を取って婚約を決めた時から…後悔なんてしてません」



その気持ちに嘘はない。

私は、私の意志でこの道を選んだ。



「だから、これでよかったんですよ」


私はそう言って体を離し、要さんの目を見つめた。


「……伽耶」


要さんの低い声が、すぐ傍で聞こえた。

熱っぽいその瞳が私を捉えると、後頭部を引き寄せられて、唇が重なった。


「、ん……っ」


最初は触れるだけのキスだった。

初めてのことに、私はただされるがまま。

次第に深くなってくるそれに、息苦しさを覚えながら。

でも、要さんの気持ちを受け止めようと必死に応えた。
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