温もりを抱きしめて【完】
いつの間にかベッドに押し倒され、景色が反転していた。

目を開けると、白い天井を背にした要さん。

私は息を切らし、ボーッとした顔で彼を見つめた。


「……伽耶」


その声で名前を呼ばれると、胸が苦しくなる。

切なくなる。

頬に伸びてきた手に、自分の手を重ねて顔を寄せた。

込み上げてきそうな涙をどうにか堪えて、「……要さん」と呟いた。



「……今日は傍にいてくれ。ただ、隣にいるだけでいいから」




それは今側にいない彼女の身代わりに、ということなのか。

そんな厭な感情が頭をよぎった。

深まる恋心は、『私を見て』と心の中で叫んでた。

でも、……そんな事言えない。

そんな我儘を言ってしまえば、要さんをもっと苦しませてしまう。



「……いいですよ」


出来るだけ笑顔を意識して、そう答えた。



私は所詮、政略結婚のコマなんだ。

会社の為に、お父様の為に要さんはこの婚約を決めたんだ。



だから、望んじゃいけない。

願っちゃいけない。

『愛されたい』なんて、そんな戯言。

心に想う人がいる彼にとっては、ただ迷惑な気持ちでしかないのだから。



隣で眠る要さんを見つめて、そんな事を考えながら。

その日私は、声を殺して泣いていた。
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