温もりを抱きしめて【完】

彼女と私

5日間の休みも終わり、また学校生活が始まった。

授業では来月に控えた体育祭の練習が増え、疲れの所為か、教室のあちこちに居眠りをしている生徒がいる。

私も、ホワイトボードに向かって喋り続けている先生の話を聞かずに、窓の外をぼんやりと眺めていた。

グランドでは1年生がリレーの練習をしている。



あの軽井沢のホテルでの翌朝。

目を開けると、肘をついてこちらを見つめる要さんと目が合った。


『…よく寝てたな』


恥ずかさで私の眠気は一気に覚め、慌てて布団を被ると、ククッという笑い声が聞こえきた。

布団越しにポンポンと頭を撫でて、要さんはシャワーを浴びに浴室へと行ってしまった。

そろりと被っていた布団から顔を出し、ドキドキとうるさい胸を押さえた。


その後、私もシャワーを浴びて、身支度を整えた私達は二宮さんに迎えに来てもらい、別荘へと戻った。

それから残りの日も、特に要さんとの間で何かあった訳でもなく、変わりない別荘生活を過ごした。



あのキスのことを、要さんは覚えてるんだろうか?


あまりにも要さんが普通すぎて、そんな言葉が頭を何度も巡った。

酔っていたし、もしかしたら要さんにとってキスくらい何ともないのかも…という考えも過ぎったけれど。

あれは紛れもなく、私にとってはファーストキスだった訳で。

なかった事に出来る程の余裕なんて、これっぽっちもなかった。



グランドではコーンを片手に倉庫へ向かう生徒が何人かいた。

時計を見れば、授業終了まで後5分になっていた。

私は周りが気付かないくらいの小さな溜息を吐いて、写しそびれていたホワイトボードの字を追った。




< 137 / 171 >

この作品をシェア

pagetop