温もりを抱きしめて【完】
「、要さん!終わったんですか⁈」


読んでいたページがデートスポットだっただけに、何だか恥ずかしくなった私は慌てて雑誌を閉じた。

その所為で不自然に早口になり、動揺してるのがきっとバレバレだ。


「あぁ。遅くなって悪かったな」


辺りを見渡すと、いつの間にか外は暗くなっていて、周りにいた生徒たちも帰ってしまっていた。



「で、どうなんだ?」


要さんは座っている私の後ろから雑誌を開き、ページをパラパラと捲り出す。

その行動にも驚いたけど、私はそれよりも彼との距離の近さにドキドキしていた。

触れてしまいそうな背中に感じる気配。

耳元で聞こえる要さんの低い声が、くすぐったい。


要さんの手が止まる。

雑誌に目線を戻すと、先程私が見ていたページが開かれていた。


「、ココに載ってるガーベラが綺麗で…っ」


そこまで言って、口を噤んでしまった。

ホントは要さんと行けたら…と思ったけど、そんな事まで言えなかった。


「…ホントだな」


要さんがガーベラの写真を指でなぞる。

そのまま黙ってしまった彼の横顔を覗くと、目線は雑誌に向けられていた。


……やっぱり近い。

こんなに近いと、軽井沢の…隣で眠ったあの夜を思い出す。


「帰りましょうか!もう、こんな時間っ」


私がバッと立ち上がると、要さんも手元の腕時計を見て「19時か…」と呟いた。


「もう二宮が着いてる頃だ。帰るか」

「ハイ」


私は読み終えた雑誌を片付けた後、入り口の壁に寄りかかって待っている彼の元へ駆け寄った。


「行くぞ」と歩き出した要さんの半歩後ろを歩く。

以前の私たちなら、この校内をこうして歩くなんて考えられなかったのに。


時の流れと、環境の変化はこんなにも早い。



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