温もりを抱きしめて【完】
「...、伽耶?」



帰りの車の中。

要さんが私の名前を呼ぶ声が聞こえて、パッと顔を上げた。

彼の方を見ると、窓に肘を置いてこちらを見る要さんと目が合った。



「どうかしたのか?そんな顔して」


「あ、いえ...すみません。ちょっとボーっとしてて」


「疲れてるなら週末のパーティは俺1人で出てもいいぜ」



要さんの言葉に、そう言えば先ほどから9月10月に行われるパーティの予定について話してたんだと思い出す。

パーティには婚約者が同伴するのが通例なので、もちろん私は出席するつもりだ。



「大丈夫です。予定通り出席でお願いします」


「...分かった。でも、体調が悪かったら家で安静にしとけよ」


「じゃあ、その時はそうさせてもらいます...」


「あぁ」



要さんはそう言うと、手元の招待状を封筒にしまって、運転席にいる二宮さんに預けた。




こうして私の体調を気遣ってくれる、そんな事も嬉しかった。



『共にする以上大事にする』



その言葉を要さんは、要さんなりに守ろうとしてくれている。

だから私も、あの日の誓いを忘れずに...ただ前だけを見て歩けばいい。

そう思っていた。



だけど、今。

私の心は揺れていた。



会社の為に彼女を諦めた要さん。

要さんを信じて、別れを受け入れた彼女。

そんな2人を見たら、誰が見たって邪魔な存在は私だ。



要さんはこれから先私といて、ホントに幸せになれるんだろうか。



私の心は、足場が不安定でグラグラと揺れている。

要さんに好意がある私は、彼と一緒にいたいと思う。

だけど、今だって窓の外を眺める彼を見ていたら「彼女の事を考えてるのかな」って思ってしまう。



どうしたらいいのか、今はもう分からない。


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