温もりを抱きしめて【完】
そんな私の意識しているわずかな距離に、要さんは気付いていないようだった。

仮に気付いていたとしても、彼の中に占める私の存在は大きくはない。

だから、私が彼を避けたところでそれは要さんにとっては何でもないことのような気がした。



学校が休みである日曜の午後。

午前中にピアノのレッスンを終えた私は、「1人で出かけたい」と間島さんに申し出て、街をぶらぶらとしていた。

「せめて駅までは送らせてください」と頑なに言う二宮さんに免じて駅前まで送ってもらい、そこから電車に乗ってココまでやってきた。



街は日曜ということもあって人通りが多かった。

通りに並ぶショップのディスプレイを眺める。

気に入った服や小物を見つけると、中に入って商品を手に取ってみるけど、「買いたい!」と思える程のものでもなかった。



午前中は私同様、家にいた要さん。

それから一緒に昼食を取った時には、体育祭の準備の話をしながら、いつもと変わりない時間を過ごした。

午後に予定がない時はティータイムの時間にまた顔を合わせるけど、それも何だか気が進まなくて、私は出かけることにしたのだ。



ーーーあ。


たまたま見つけたメンズショップのディスプレイに目を奪われた。

そこには手帳やブックカバーなどの小物が並んでいて、「旦那さんや彼氏へのプレゼントに」という言葉が添えられていた。


そういえば、もうすぐ要さんの誕生日だ。


西園寺家に越してきてばかりの頃、要さんの簡単なプロフィールを間島さんから聞いていたのを思い出す。


ーーー何か、あげたいな。


その気持ちは、自然と出てきた。

やっぱり…好きな人の誕生日は、お祝いしてあげたい。


そう思った私はしばらくディスプレイを眺めた後、ショップのドアに手をかけた。
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